2013年7月19日金曜日

君に届け/好きっていいなよ。が人気なワケ

悩める現代っ子に光を! ヒロインは「コンプレックス女子」


ちょっと前までの少女マンガと言えば、麗しいor可愛らしいヒロインがちょっとモテちゃったりしながらアレコレ的な展開がデフォでしたが、現在の少女マンガの大半を占めているヒロインは「コンプレックス女子」なんですよ。
皆さん、この違いに気付いてました?

昔は漫画のヒロインって憧れの対象だったけど、今はリアリティがある方が受けるんでしょうね。
多かれ少なかれ、現代っ子はみんなコンプレックスに苛まれています。
小学生がダイエットに勤しんだり、メイクで顔変えたりする時代ですからね。
そんな読者層にズキュンと撃ち込まれるのは、そういった等身大のコンプレックスを抱えた女の子の物語なのでしょう。

というわけで、まずは代表的な2作を紹介。


***ネタバレ注意***


『君に届け』椎名軽穂 集英社



”やっと届いた…”

――あらすじ
舞台は北海道。北幌高校に入学した黒沼爽子は、陰気で見た目が暗く、周りからは「貞子」と呼ばれ、クラスに馴染めないでいた。しかし、クラスメイトの風早翔太や吉田千鶴、矢野あやねなどの協力を得て、周囲の誤解を解き、友情・恋愛などを通して成長していく。
(出典:Wikipedia)

今をときめく「君届」こと、君に届け!!!!
アニメにも映画にもなっております。これはもう、数年ぶりの大名作と言っても過言ではないでしょう。

上記のあらすじにもある通り、ヒロインの爽子はその名に似合わずなんだか陰気な雰囲気で3秒以上目を合わせると呪われるだとか何だとか言われて「貞子」なんてイジメすれすれのあだ名まで付いちゃってます。

ただね、この爽子がただのコンプレックス女子と一線を画しているのは、自信は無いものの、基本前向きなところ。
無知は最強とでも言いますか、ラブリー変換((c)悪魔にラブソング)が意外にも上手で、どんなことを言われても皆ともっと仲良くなろうと必死なんです。決して捻くれてない。

で、そんな爽子をそっと優しく見守る、クラスの人気者・風早くん(イケメン爽やかボーイ)の存在ね。風早くんは一度も爽子を「貞子」って呼んだことないんだよ。
一見陰気な雰囲気の女の子の中にあるピュアさとか可愛らしさをいち早く見抜いてて、こっちが悶絶するくらい真っ直ぐに爽子に恋してるんです。
もーーね!! 風早くんは全国女子の味方だよね!!!
引用した名台詞も、風早くんの両想い達成後のひとことです。
これは映画のラストシーンにもなっていて、リアル風早こと三浦春馬にはキュンキュン通り越してギュンギュンギューンさせられましたよ、ええ。村上ショージのようにね。

総じてこの作品の良さは、女性視点だけではなく、男性視点の恋心もうまく織り交ぜられているところ!
これはポイント高いです。


続いてはこれ。


『好きっていいなよ。』葉月かなえ 講談社



”何にも言わないと本気チューしちゃうぞ”

――あらすじ
16年間、彼氏も友達も作らずにきた橘めい。ある日、誤解で学校一のモテ男・黒沢大和にケガをさせてしまうが、なぜか大和はめいを気に入って一方的に友達宣言。さらに、めいをストーカーから守ってくれたうえに、守るためとキスまでしてきて…!?
(出典:好きっていいなよ。アニメ公式サイト)

これぞ典型的なコンプレックスヒロイン。友達なんてまったくおらず、携帯のメモリーは家とバイト先のみっていう根暗女子・めいに急接近するのは学校イチのイケメン・大和なのです。

っていうかね、何を差し置いてもこの「大和」がイケメンすぎるのよほんとに! 私がこの漫画を推す理由は個人的に大和の容姿が超絶タイプだからでーーーす!!!
なんて言ったら怒られそうだけど、これホント。
だってだって、長年ワタクシが愛してやまないか○し様とちょっと、に、似てるんですもの…。
とりあえず試しに検証してみて良いですか?


大和(左)↓


か○し様(左)↓




似てない?だめ?



…脱線しました。
話を戻して、大和はもちろん容姿だけじゃなく、中身もイイ男なのよ。
だってめいの良いところも悪いところもぜーんぶガッツリ受け止めちゃう包容力があるんだもの。
めいも過去のいじめ経験から人の痛みが分かる、まっすぐで芯の強い女の子。そして、そんなめいの純粋さを精一杯大事に守る大和。
ナイスカップルすぎだろう…泣いていいですか…


とまぁ、上記2作品に共通して言えることは、学校でハブられちゃうほどの陰気~な女子の心を溶かしてくれる王子様の存在ですね。
そこまで陰気じゃなくとも、自分に自信の持てない女の子はこういう漫画を読んで夢を馳せるわけです(ワタクシ含め)。

この派生で最近ひそかに人気が出てきているのが、「花とゆめ」連載の

『ぽちゃまに』平間要 白泉社



ですね。
最近アジアン馬場園さんが「ぽっちゃり普及委員会」とかのイメージキャラになって話題になってるアレです。
ストーリーはお察しの通り、ぽっちゃりした女の子がやわらかい物大好きな男子(超イケメン)と出会って恋に落ちる的な…
これはね…本誌で連載中なので読ませていただいてますが、リアルぽっちゃりから言わせてもらうとですね、なんかもう恥ずかしくて見てられない感じです(笑)。
こんなシチュエーションに憧れを抱きつつも、「いやいやこんなことある訳ないんだからとりあえず痩せろ、自分」と戒めにも繋がるという!

これは幻想だ わたしは痩せるぞー!!!
と、叫んでみる。。

王家の紋章/天は赤い河のほとり考察

時代の変化に見られるヒロイン像――「守られる女」から「守る女」へ


なんか仰々しいタイトルつけちゃいましたけど。
ネット上でよく議論されてる2つの作品についての個人的見解を少し書こうかと思いましてですね。
別にたいしたもんじゃないんですけどね、
興味がある方やどちらかを読んだことのある方、未読の方もお時間ありましたらちょっとお付き合いくださいませ。

さて、少女マンガ史におけるタイムスリップ・ファンタジーの代名詞として挙げられる2つの作品








どちらも歴史に残る名作ですね。かくいう、ワタクシも大ファンであります。

で、じつはこの両者には数多の共通点がございまして。
まず時代設定が同じ。両方とも古代オリエントですね。
んでもって、両方ともヒロインが魔女的おばさんの呪いによって現代からタイムスリップしちゃうっていう流れ。
んでさらに、王家の嫁としてあれやこれやーってとこまで同じという!!
巷ではパクッたパクられただのと言われていますが、私としてはこの2作品の対比が面白くて仕方ないんですよ。

というわけで、まずはそれぞれの作品をちょっと紹介しましょう。


***ここからかるーくネタバレあります***


『王家の紋章』

”メンフィス、わたしはあなたに命をかけたの!”

――あらすじ
エジプトに留学中の主人公―キャロル・リードは、日々熱心に考古学を学ぶ16歳のアメリカ人。ある日、リード家が貢献する事業の一環として若くして暗殺された古代エジプト王(ファラオ)―メンフィスの墓を暴いた為、彼女は神殿の祭祀であったメンフィスの姉―アイシスの呪術により、古代エジプトにタイムスリップしてしまう。
(出典:Wikipedia)

こちらは言わずと知れた長寿作品ですね!
月刊プリンセスにてなんと1976年より連載開始、現在既刊58巻であります!
1976年ってまだワタクシ生まれてないですよ。。。我々の母親世代の漫画が現在も現役活躍しているなんて、素晴らしいじゃないですか。まさに時空を超えた名作というか。
それにこの作品の素晴らしいところは、設定が非現実的で登場人物も外国人だからか、絵柄はともかく今読んでも内容にあまり時代錯誤感が無いんですよね~。
それがファンタジー作品の良い部分でもあります。オススメ。

って、この作品の素晴らしさはひとまず置いておいて、
ここで書きたいのはヒロイン「キャロル」の性質について。

当時の少女マンガのヒロインにありがちな「お転婆な女の子」として序盤は描かれているのですが、巻を重ねるごとに性格が変化していきます。
最初はね、崖で逆さ吊りになって考え事をしちゃうような男子も真っ青のお転婆娘なんだけど、だんだん弱~く、か弱~くなちゃうんです、この子。機転とか思い切りは根底に流れるお転婆性質が残ってるんだけど、なんつーのかな…男を知って変わっちゃったっていうか(笑)
下衆な言い方しましたけど、絶対的に守ってくれる存在(ヒーローのメンフィスですね)を得て、「守られる女」になっていっちゃうんです。

まぁ、乙女心としてはリアルといえばリアルかな。
危険に対峙した時にふと見せる強さもあったりして、そんなところは可愛いと思うけど。
でもね~、とにかくキャロルは隙ありすぎ! さらわれすぎ! 優柔不断すぎ!! 
忠告を聞かずに危険な行動してはヒッタイトのイズミル皇子(イケメン)に何度も何度も拉致られて甘い言葉にグラッと来て、かと思えば自分の兄ちゃん(イケメン)に想い引き摺られて現代に舞い戻っちゃったり。
それでもね、そんなダメ嫁を例え火の中水の中、地の果てまでもメンフィスは助けに行くわけですよ…「馬ひけ~っ!」ってね…泣けるじゃないですか。

あんなに愛されて大事にされて、何が不服なんだよと。
現代っ子としては悶々としちゃうんですよね、そんな彼女に。
でも、この作品が生まれたのは70年代。女性が活躍を始めるもまだまだ早婚の時代で、女性とは男の三歩後ろを歩く的な思想がまかり通ってた頃ですよね。
その時代の少女たちといえば、やっぱり男に守られてなんぼというか、そこに価値を見出してたのかな~って。
この作品のヒットの背景がそういった女性の価値観だったとしたら、キャロルのこの性質は頷けますね。


で、対するはこの作品。

『天は赤い河のほとり』

”あなたの手にオリエントの覇権を!”

――あらすじ
第一志望の高校に合格したばかりの中学生・鈴木夕梨(ユーリ)は、ボーイフレンドの氷室聡との仲もいい雰囲気となり、暖かい家族に囲まれ、幸せな毎日を送っていた。そんな矢先、楽しいデートの最中に突然現れた両手によって、水溜りの中に引き込まれる。両手から逃れて水中から顔を出したユーリが目にしたのは、紀元前14世紀のヒッタイト帝国の首都ハットゥサだった。
(出典:Wikipedia)

これはハマりましたね~!
個人的に「強い女」が大好物でして、そのうえイケメンとの甘々ラブ+戦闘シーン+下克上っていう、ワタクシのツボを知り尽くしているかのような内容にファンブックを隅々まで熟読しちゃうほど、ハマりました。

悪いおばさんの呪術によってヒッタイトの沼に飛ばされちゃったユーリはまずひょんなことからカイル皇子(イケメン)の側室となって居場所を得るわけですが、その後の女の争いが面白いのなんの。でもって訳わからん呪術でいろんな事件が起こり、その中でただのか弱い女の子だったユーリが剣を磨き、女を磨き、兵法を覚え心身ともにぐんぐん成長していきます。最終的には近衛長官になってまで旦那のカイルを守り抜くっていう…もう、彼女の資質にはあっぱれですよ。
なんてったって「戦いの女神イシュタル」ですからね。後見人は国民ですからね。
水戸黄門的に毎度胸がスーっとする展開で、読んでて楽しい作品です。

と、存分にユーリマンセーしましたが。
決して『王家~』のキャロルがダメ嫁だということを語りたいわけではなく、ここで注目したいのはやっぱり時代背景なんですよ。

この作品の時間軸は1995年。まさにワタクシたちの世代です。
それでヒロインの存在がこんなにドンピシャだっていうことは、やっぱりこの時代に女性の在り方、価値観が大きいんだと思うんです。

男女平等・フェミニズム思想が大きく唱えられ女性の職が一般職から総合職へと増幅し、「働く女性」がブランド化したバブル期の先にある私達の世代。
とにかく心身共に「強い女性」が今以上にもてはやされていましたね。
ユーリのような自立心のある「男を守る女性像」は憧れの対象だったように思います。(そのなれの果てが草食系男子がモテる現代なのではないかと)
おバカな男の尻を叩くような肝っ玉かあちゃんは私達世代ではスタンダードだったのです。

この『天河』でも、ユーリが必死に敵国と戦ってる最中に、一国の主であるカイルは恋敵ラムセスと川原でなぜか全裸で取っ組み合いの喧嘩をしているというおバカっぷり。情けない。
おぬしは性欲だけかと。自制心ってもんはないのかと小一時間(ry


と、カイルへの文句はこのくらいにしておいて。
似てる、似すぎていると評判(?)の『王家の紋章』と『天は赤い河のほとり』。
設定は同じくしても、実は男女の立場が見事に逆転した対極にある作品なのですよ。
両方とも未読の方、どちらかのファンで片方食わず嫌いしている方には是非続けて読んでいただきたい!

同じストーリーを世代という別の視点で切り取った、2つの物語。
どちらも名作ですので、是非お手に取ってみてください。