2013年7月19日金曜日

王家の紋章/天は赤い河のほとり考察

時代の変化に見られるヒロイン像――「守られる女」から「守る女」へ


なんか仰々しいタイトルつけちゃいましたけど。
ネット上でよく議論されてる2つの作品についての個人的見解を少し書こうかと思いましてですね。
別にたいしたもんじゃないんですけどね、
興味がある方やどちらかを読んだことのある方、未読の方もお時間ありましたらちょっとお付き合いくださいませ。

さて、少女マンガ史におけるタイムスリップ・ファンタジーの代名詞として挙げられる2つの作品








どちらも歴史に残る名作ですね。かくいう、ワタクシも大ファンであります。

で、じつはこの両者には数多の共通点がございまして。
まず時代設定が同じ。両方とも古代オリエントですね。
んでもって、両方ともヒロインが魔女的おばさんの呪いによって現代からタイムスリップしちゃうっていう流れ。
んでさらに、王家の嫁としてあれやこれやーってとこまで同じという!!
巷ではパクッたパクられただのと言われていますが、私としてはこの2作品の対比が面白くて仕方ないんですよ。

というわけで、まずはそれぞれの作品をちょっと紹介しましょう。


***ここからかるーくネタバレあります***


『王家の紋章』

”メンフィス、わたしはあなたに命をかけたの!”

――あらすじ
エジプトに留学中の主人公―キャロル・リードは、日々熱心に考古学を学ぶ16歳のアメリカ人。ある日、リード家が貢献する事業の一環として若くして暗殺された古代エジプト王(ファラオ)―メンフィスの墓を暴いた為、彼女は神殿の祭祀であったメンフィスの姉―アイシスの呪術により、古代エジプトにタイムスリップしてしまう。
(出典:Wikipedia)

こちらは言わずと知れた長寿作品ですね!
月刊プリンセスにてなんと1976年より連載開始、現在既刊58巻であります!
1976年ってまだワタクシ生まれてないですよ。。。我々の母親世代の漫画が現在も現役活躍しているなんて、素晴らしいじゃないですか。まさに時空を超えた名作というか。
それにこの作品の素晴らしいところは、設定が非現実的で登場人物も外国人だからか、絵柄はともかく今読んでも内容にあまり時代錯誤感が無いんですよね~。
それがファンタジー作品の良い部分でもあります。オススメ。

って、この作品の素晴らしさはひとまず置いておいて、
ここで書きたいのはヒロイン「キャロル」の性質について。

当時の少女マンガのヒロインにありがちな「お転婆な女の子」として序盤は描かれているのですが、巻を重ねるごとに性格が変化していきます。
最初はね、崖で逆さ吊りになって考え事をしちゃうような男子も真っ青のお転婆娘なんだけど、だんだん弱~く、か弱~くなちゃうんです、この子。機転とか思い切りは根底に流れるお転婆性質が残ってるんだけど、なんつーのかな…男を知って変わっちゃったっていうか(笑)
下衆な言い方しましたけど、絶対的に守ってくれる存在(ヒーローのメンフィスですね)を得て、「守られる女」になっていっちゃうんです。

まぁ、乙女心としてはリアルといえばリアルかな。
危険に対峙した時にふと見せる強さもあったりして、そんなところは可愛いと思うけど。
でもね~、とにかくキャロルは隙ありすぎ! さらわれすぎ! 優柔不断すぎ!! 
忠告を聞かずに危険な行動してはヒッタイトのイズミル皇子(イケメン)に何度も何度も拉致られて甘い言葉にグラッと来て、かと思えば自分の兄ちゃん(イケメン)に想い引き摺られて現代に舞い戻っちゃったり。
それでもね、そんなダメ嫁を例え火の中水の中、地の果てまでもメンフィスは助けに行くわけですよ…「馬ひけ~っ!」ってね…泣けるじゃないですか。

あんなに愛されて大事にされて、何が不服なんだよと。
現代っ子としては悶々としちゃうんですよね、そんな彼女に。
でも、この作品が生まれたのは70年代。女性が活躍を始めるもまだまだ早婚の時代で、女性とは男の三歩後ろを歩く的な思想がまかり通ってた頃ですよね。
その時代の少女たちといえば、やっぱり男に守られてなんぼというか、そこに価値を見出してたのかな~って。
この作品のヒットの背景がそういった女性の価値観だったとしたら、キャロルのこの性質は頷けますね。


で、対するはこの作品。

『天は赤い河のほとり』

”あなたの手にオリエントの覇権を!”

――あらすじ
第一志望の高校に合格したばかりの中学生・鈴木夕梨(ユーリ)は、ボーイフレンドの氷室聡との仲もいい雰囲気となり、暖かい家族に囲まれ、幸せな毎日を送っていた。そんな矢先、楽しいデートの最中に突然現れた両手によって、水溜りの中に引き込まれる。両手から逃れて水中から顔を出したユーリが目にしたのは、紀元前14世紀のヒッタイト帝国の首都ハットゥサだった。
(出典:Wikipedia)

これはハマりましたね~!
個人的に「強い女」が大好物でして、そのうえイケメンとの甘々ラブ+戦闘シーン+下克上っていう、ワタクシのツボを知り尽くしているかのような内容にファンブックを隅々まで熟読しちゃうほど、ハマりました。

悪いおばさんの呪術によってヒッタイトの沼に飛ばされちゃったユーリはまずひょんなことからカイル皇子(イケメン)の側室となって居場所を得るわけですが、その後の女の争いが面白いのなんの。でもって訳わからん呪術でいろんな事件が起こり、その中でただのか弱い女の子だったユーリが剣を磨き、女を磨き、兵法を覚え心身ともにぐんぐん成長していきます。最終的には近衛長官になってまで旦那のカイルを守り抜くっていう…もう、彼女の資質にはあっぱれですよ。
なんてったって「戦いの女神イシュタル」ですからね。後見人は国民ですからね。
水戸黄門的に毎度胸がスーっとする展開で、読んでて楽しい作品です。

と、存分にユーリマンセーしましたが。
決して『王家~』のキャロルがダメ嫁だということを語りたいわけではなく、ここで注目したいのはやっぱり時代背景なんですよ。

この作品の時間軸は1995年。まさにワタクシたちの世代です。
それでヒロインの存在がこんなにドンピシャだっていうことは、やっぱりこの時代に女性の在り方、価値観が大きいんだと思うんです。

男女平等・フェミニズム思想が大きく唱えられ女性の職が一般職から総合職へと増幅し、「働く女性」がブランド化したバブル期の先にある私達の世代。
とにかく心身共に「強い女性」が今以上にもてはやされていましたね。
ユーリのような自立心のある「男を守る女性像」は憧れの対象だったように思います。(そのなれの果てが草食系男子がモテる現代なのではないかと)
おバカな男の尻を叩くような肝っ玉かあちゃんは私達世代ではスタンダードだったのです。

この『天河』でも、ユーリが必死に敵国と戦ってる最中に、一国の主であるカイルは恋敵ラムセスと川原でなぜか全裸で取っ組み合いの喧嘩をしているというおバカっぷり。情けない。
おぬしは性欲だけかと。自制心ってもんはないのかと小一時間(ry


と、カイルへの文句はこのくらいにしておいて。
似てる、似すぎていると評判(?)の『王家の紋章』と『天は赤い河のほとり』。
設定は同じくしても、実は男女の立場が見事に逆転した対極にある作品なのですよ。
両方とも未読の方、どちらかのファンで片方食わず嫌いしている方には是非続けて読んでいただきたい!

同じストーリーを世代という別の視点で切り取った、2つの物語。
どちらも名作ですので、是非お手に取ってみてください。

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